燕三条には、製品を作る職人だけでなく、その職人たちを支える職人がいます。今回訪れたのは、親子二代にわたって営んでいる鍛冶屋。
工房に到着してまず驚くのは、その佇まい。会社の看板はなく、外から見るとごく普通の民家です。知らなければ、ここで長年にわたり鍛冶職人たちを支える道具が作られているとは気付かないでしょう。しかし、一歩工房へ足を踏み入れると、そこには昔ながらの鍛冶の世界が広がっています。使い込まれた道具、長年の仕事によって刻まれた作業台、そして鉄を打つ音。静かな住宅街の一角で、今も変わらず職人の技が受け継がれています。

ここで作られているのは、「ハシ」と呼ばれる鍛冶道具です。食事に使う箸ではなく、鍛冶職人が真っ赤に熱した鉄をつかみ、炉から取り出したり加工したりするために使う専用の道具です。「ハシ」は鍛冶職人にとって最も重要な道具の一つです。高温の鉄をつかみ、自在に操るために欠かせないもので、ハシがなければ仕事そのものが成り立ちません。まさに鍛冶職人の“手”ともいえる存在であり、商売道具の中でも特に重要な役割を担っています。鍛冶職人によって扱う製品や作業内容は異なるため、必要とされるハシの形もさまざまです。そのため、一丁一丁が職人の要望に合わせて作られています。使いやすいハシは良い仕事につながり、良い製品を生み出します。つまり、この工房が作っているのは単なる道具ではありません。ものづくりを支える職人たちの仕事そのものを支えているのです。

こうした専門的な鍛冶道具を作る職人は年々少なくなっています。特に、自宅の工房で一人仕事を続ける鍛冶屋は今では貴重な存在です。大量生産では決して生み出せない技術と経験が、この小さな工房には受け継がれています。華やかな製品の陰には、それを作る職人がいます。そして、その職人を支える職人もまた存在します。看板のない一軒の工房で作られる一本のハシ。その一本が、今日もまた日本のものづくりを支えています。


