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地元の人だけが知っている季節のうつろい

三条では、暦よりも早く季節の変わり目を知らせてくれる存在がいる。それは、毎年10月の後半になると、はるかロシアから渡ってくる白鳥たちだ。朝夕の空を見上げると、甲高い鳴き声とともに白鳥の群れが隊列を組んで飛んでいく。その姿を見つけた瞬間、地元の人は自然と同じことを思う。

「今年も、いよいよ冬が来るな」と。

白鳥たちは、川や湖だけでなく、工業団地の周辺に広がる田んぼにも降り立つ。収穫を終えた田んぼで餌を探すその姿は、この町の日常風景の一部だ。無機質に見える工業地帯と、白鳥が羽を休める田園風景が隣り合っているのも、三条らしさのひとつかもしれない。

白鳥が飛来すると、人々の暮らしも静かに動き出す。スタッドレスタイヤの準備、雪囲い、冬物の衣替え。長く厳しい冬に耐えるための支度を、誰に言われるでもなく始める。白鳥は、季節の区切りを知らせる合図のような存在なのだ。空を見上げると、何十羽もの白鳥が整然と並んで飛んでいく。その堂々とした姿には、言葉にできない自然の偉大さを感じる。毎年見ているはずなのに、決して見慣れることはない。

白鳥は人々の心を癒す存在でもある。週末になると、「白鳥の郷」と呼ばれる河岸の施設には、白鳥に餌をあげに来る地元の人の姿が見られる。子どもから年配の方まで、それぞれが少し距離を保ちながら、静かに白鳥と向き合う時間を過ごしている。そこには観光地らしい賑わいはないが、この町ならではの穏やかな風景がある。

昨年の春、そんな白鳥たちの中に、怪我をしてロシアへ北帰することができなかった一羽がいた。地域の人たちは心配そうに見守り、ときどき餌をあげながら、厳しい夏の暑さを一緒に乗り越えた。そして今シーズン、再び白鳥の群れが飛来したとき、その一羽は無事に群れへ合流することができた。その姿を見て、ほっと胸をなで下ろした人も多かったはずだ。白鳥はただの渡り鳥ではなく、この町の暮らしと心に、確かに寄り添っている。

こうした季節のうつろいは、観光ガイドにはあまり載らない。けれど、地元の人だけが毎年感じ、受け継いできた大切な風景だ。白鳥がやってくるたびに、三条の冬が静かに始まる。

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